ナンバープレイなどのフォーメーション(セットオフェンス)を覚える流れ。バスケに役立つ知識

【セットオフェンス(フォーメーション)を覚える三行まとめ】

ゾーンアタックやナンバープレイなどのように、システマチックなオフェンスをチーム内で浸透させるための流れを整理しました。
以下、セットオフェンスと呼びます。

☑作戦盤などで伝える
☑ウォークスルー→リミテッド→フルディフェンスで実践
☑紅白試合→練習試合→公式試合で実践

【セットオフェンスを覚える流れ】

イメージング
→ウォークスルー
→リミテッドディフェンス
→フルディフェンス
→スクリメージ
→プラクティスゲーム
→オフィシャルマッチ

【用語のすり合わせ】

フリーオフェンス:アライメントやアクションを決めず、その場で選手に判断させるプレイ。
セットオフェンス(パターンオフェンス):アライメントやアクションをあらかじめ決めておくプレイ、ハンドサインやコールなどをしてプレイを選択する。
モーションオフェンス:おおまかな攻撃方針を決定し、選手にプレイを判断させる。(フリーオフェンスの派生、ドライブモーション、パッシングモーション、DHOモーション)
オプショナルオフェンス:どの状況でも2~3パターンの動きをあらかじめ用意し、パターンの中から選手に選ばせるプレイ。(セットオフェンスの派生)
アーリーオフェンス(トランジションオフェンス):ディフェンスが整う前に攻めること。8秒以内に点を取るとトランジションポイントとして計測する。
ハーフコートオフェンス:オフェンスが整ってから攻めること。
BOB(BLOB):ベースライン・アウト・オブ・バウンズ・プレイ。エンドラインからのスローインでするセットオフェンス。
SOB(SLOB):サイドライン・アウト・オブ・バウンズ・プレイ。サイドラインからのスローインでするセットオフェンス。
アライメント:選手がコートで立つポジショニング。
オフェンスアクション:具体的なオフェンスの動き。
エントリー:セットオフェンスの始まりとなるプレイ。
カモフラージュ:エントリー前に入れるプレイ。オフェンスの本当の狙いを読まれないようにする。
オプション(1st・2nd):シュートの選択肢優先順位。
クイックヒッター:BOB&SOBのパスの後に直接シュートにいくセットオフェンス。
ノーマル:BOB&SOBのパスの後に、複数のプレイを挟んでからシュートにいくセットオフェンス。

【イメージング】

イメージングとは情報を伝え、プレイヤーに動きをイメージさせることです。
タクティックボード(作戦盤)をつかって教えることが多いと思います。
最近では、YouTubeのおかげで、動画を使ってイメージさせることが多いですね。
居酒屋だと、ジョッキをプレイヤー、おしぼりをボールに見立てて、即席の作戦盤を使って説明したりしています。

【ウォークスルー】

ウォークスルーとは、共有したイメージをコートで確かめることです。
歩きまたはジョグ程度のスピードで、エントリー(最初の動き)からシュートまでの一連の動作を確かめます。
最初はディフェンスがいない状態で始めて、イメージするためにディフェンスに入ってもらう順番です。
ここで、動きを理解できていなければ、そのまま説明するか、再度作戦盤を通して説明します。
「アウトプットは最大のインプット」の言葉通り、分からない人に作戦盤を使って説明してもらうのが一番、本人の理解度が最も高まる方法となります。

【リミテッドディフェンス】

リミテッドディフェンスとは制限つきのディフェンスを入れた状態でナンバープレイをすることです。
ウォークスルーを通して、動きそのものを理解した後は、実際にディフェンスについてもらいます。
しかし、オフェンス側はプレイを理解するために、応用のプレイをしません。
ある意味制限つきのオフェンスとなります。
制限つきオフェンスに対してディフェンスが自由に守ると、オフェンスが成功するのが困難となります。
よって、ディフェンスにも制限をつけてもらうのが通常の流れです。
よくあるのは「スイッチをしない」などの制限(リミテッド)ですね。
もしくは、ディフェンスも同じ動きを確認しているので予測ができてしまうのを「知らない前提で守る」とかです。
リミテッドディフェンスを通してファーストオプションを確立させます。
制限があったとしてもディフェンスがいる状態で成功させることでプレイヤーの自信をつけさせることも価値があります。

【フルディフェンス】

憶えるという段階の最終章であるフルディフェンスです。
実戦でも通用するように、自由かつタイト(激しめ)に守ってもらいます。
ここでディフェンスが最初の想定にはなかった動きで対応してきます。
初期のイメージだと、ここのスクリーンが決まればノーマークでシュートがうてる。。。はずだったのに、スイッチで対応されてしまい、ノーマークができなかった。
この場合、臨機応変を要求し過ぎると、エントリー以外の動きは個々人頼みになってしまい、フォーメーションから逸脱してしまいます。
解決策としては、「スイッチで対応する」という制限に変えて、リミテッドディフェンスに戻って対応策を確認します。
リミテッドディフェンスとフルディフェンスを繰り返すことで、ひとつのフォーメーションから複数のオプションを確立していきます。

【スクリメージ】

スクリメージとは、チーム内で行う1~2往復程度のゲーム。または、その延長線として紅白戦のことです。
今回は、紅白戦(チーム内ゲーム)というニュアンスで使っています。
練習だとセットオフェンスをやるという共通認識がしっかりと取れているのですが、試合の中でセットオフェンスをやるとなると、意識の切替と意思疎通が難しくなります。
試合から必要だと思ったことを逆算して練習に落とし込んでいるのに、試合になった途端使わなくなると、練習と試合が完全に分離された物になります。
結果、セットオフェンスが使われなくなり、コーチの自己満足的な練習になってしまいます。
失敗してもいいので、練習でやったことを試合で何度も試すという姿勢が大事になります。

【プラクティスゲーム&オフィシャルゲーム】

プラクティスゲームは練習試合、オフィシャルゲームは公式試合のことです。
この二つは基本的にディフェンスがナンバープレイを知らない状態で、タイトなディフェンスで守ってくれるので、絶好の挑戦機会となります。
そして、試合のためにやっているので、試合で使わないのは無駄になってしまいます。
試合では、必ず使っていきましょう。
ただし、セットオフェンスというのは、フリーオフェンスとは異なり、対応策が無限にあるわけではありません。
オフェンスの形としては自分たちが用意したオプション+アルファ程度となります。
何度も短期間に同じ相手に使用すると、順応(アジャスト)されてしまいます。
使用頻度としては、連続したポゼッション(オフェンス)では使わない。
各ピリオドに1回、1試合に4~5回程度が現実的な上限だと思います。

【妥協せず、求め過ぎず】

性格によっても異なりますが、人は管理されるよりも自由にやりたい生き物です。
なので、わざわざ管理されるナンバープレイをやって失敗すると、フリーオフェンスよりも満足度が低くなります。
これがプレイヤー目線です。

それに対し、ナンバープレイの多くはコーチがチームに導入するので、最も習熟度が高いのはコーチであることが多いです。
コーチはプレイヤーがうまく対応できないことも対応できてしまうイメージをします。
これがコーチ目線です。

プレイヤーに合わせて妥協すると、プレイ頻度が減り、自然消滅して使われなくなります。
コーチに合わせて求めすぎると、感情が入ったり、叱咤の割合が増えたりするかもしれません。
折衷案として、「妥協せず、求め過ぎず」を意識し、高確率で正確に再現できるクオリティになるまで辛抱強く続けます。

【定性的でなく定量的にする】

定性的というのはイメージでの評価です。
「このナンバープレイは、なんとなくうまくいきそう」等です。
定量的というのは数字による評価です。
「このナンバープレイは、何%の確率でうまくいっている」等です。
成功確率の統計を取るのは、クラブレベルだと難しいので、あくまでも指標として、概念を数値化し共有することで納得感(雰囲気)を作ります。

〇通常のオフェンスの成功率を50%(2/4)と仮定

実際には成功率はもっと低いですが、単純化するために50%と仮定します。
ちなみに当チーム女子の38試合(2018/11/15現在)のオフェンス成功確率は35%、Wリーグの某シーズンのリーグ平均は43%です。

〇ナンバープレイの成功率を75%(3/4)に高めることを目標

75%は、めちゃくちゃ高い数字です。
75%と言わなくても、明らかにフリーオフェンスよりも成功率が高ければOKですね。
さきほどの「求め過ぎず」というのも、100%の成功率を求めるのではなく、75%を目標にすれば、高めぐらいで丁度いいのではないでしょうか。

〇ほぼ100%に近い成功率を望める時に、セットオフェンスを壊してOK

例えば、ゴール下でノーマークになった時のように成功率が極めて高い場合は、シュートを狙います。
この場合にナンバー通りの動きをしてしまったら、さすがに超マニュアル人間ですね。
しかし、こっちの方がちょっと良さそう程度でセットオフェンスを崩されると、セットオフェンスの経験値(習熟度)が高まらなくなります。
ここらへんは習熟度とチームの考え次第ですが、たとえ失敗したとしても、なるべくセットオフェンスに従った動きをした方が長期的には良いと思います。

〇自分と相手は違う

一点、気を付けて欲しいことは、「自分と相手は違う」ということです。
もし、自分が相手の立場になった場合、出来てしまうかもしれません。
理由は経験の差であったり、技量の差であったり、体格の差であったり、精神面の差であったりと様々です。
なので、「自分はできるけど、相手は自分とは違うのでできないかもしれない」と、思うことも大事です。
だからと言って、できないままで妥協するのではなく、できない理由を考え、一緒になって解決してあげます。
技術的な問題ではなければ、積極的に失敗することを良しとする文化を作り、エンパワーメントしてあげます。
そうやって、本人が嫌々やるのではなく、自発的にやりたいと思える雰囲気作りも、セットオフェンスの提案者の役目になります。

【クラブチームでもセットオフェンス】

クラブチームは学生やプロと違って、十分な練習時間を確保できず、メンバーも入れ替わりが多く、試合に来れるメンバーの固定も難しいのが現実です。
なので、75%の成功率を誇るセットオフェンスを確立させることは至難の業だと思います。
私の周りでも、ほとんどが誰かが言い出して始まり、一か月後には消えています。

しかし、私が所属している勉族(東京)では10年以上、ほとんどの試合で使われているセットオフェンスが2個(ボックスと洛南)あります。
同じ対戦相手に何度も何年も使い続けているのに、かなりの高確率で成功します。
それを見るまでは、どうせ失敗して使わなくなるんだから、フリーオフェンスでいいよというタイプでしたが、クラブチームでもセットオフェンスはチャレンジできるという確信になりました。
是非、定着を目指したナンバープレイに挑戦してみてください。